日本の伝統的な神事や舞踊の一種である神楽は、古代から続く日本の伝統芸能です。その起源は『古事記』や『日本書紀』などに記されている「岩戸隠れの段」(「天岩戸(あまいわと)伝説」)にまでさかのぼり、天岩戸と呼ばれる洞窟に隠れた天照大御神(あまてらすおおみかみ)を誘い出すために、天鈿女命(あまのうずめのみこと)が岩戸の前で舞った舞がはじまりといわれています。
神楽は大きく分けて、宮中で行われる「御神楽(みかぐら)」と民間の「里神楽(さとかぐら)」の二つに分類されます。神楽は民俗芸能として全国各地で受け継がれており、その演じ方もさまざまです。
中国四国地方でも多くの神楽が伝承されており、島根県の「出雲神楽」や「石見神楽」、広島県の「芸北神楽」、岡山県の「備中神楽」、高知県の四国山地に沿った東西一帯に伝わる「土佐の神楽」などがあり、その他にも地域に根付いた神楽が数多く存在します。その中からいくつか紹介します。
●石見神楽(島根県)
島根県西部の石見地域で演じられる神楽で、豪華絢爛な衣装や多種多様な面を身にまとった人々が笛や太鼓のお囃子に合わせ、神話を題材として悠々と舞うものです。お囃子には「六調子」と呼ばれる神楽本来のものと、神楽再興のために編み出されたテンポの速い「八調子」のものがあり、「石見神楽」においては「八調子」のものが多くなっています。石見神楽は、大蛇が火や煙を吹くといったリアルな演出や勧善懲悪といった分かりやすいストーリーが特徴です。
●芸北神楽(広島県)
広島県北西部の山県郡、安芸高田市など芸北地域一帯は神楽が盛んな地域として知られ、島根県西部の石見地方から山県郡全域に伝わった「旧舞」と言われるものと、石見地方から高田郡を経て終戦後に伝わった「新舞」と言われるものとが北広島町東部で合流し、この地の民俗芸能として伝承されています。華やかな衣装や大きな面による演出が特徴です。
地域により様々な特徴や趣のある神楽。「神」を「楽」しませる舞であるという根本の定義を大事にしつつも、それぞれの地域で、そこに生活する人々の手で独自の発展を遂げてきました。この魅力的な「神楽」を間近で見て、迫力を感じてください。